税理士にとってSNSは、確定申告、インボイス、税制改正など、人が「調べたくなる」タイミングで出会える場所です。難しい税の話を分かりやすく解説すれば、顧問先を探す経営者や個人事業主に「相談しやすそう」と思ってもらえるでしょう。
一方で、税理士の広告には、税理士法、日本税理士会連合会(日税連)の会則、各税理士会の細則・運用指針という決まりがあります。この記事では、確認できた範囲で、禁止される広告、元国税職員の経歴や依頼者名の書き方、SNS運用の実務、守秘義務と個別相談の扱いを説明します。弁護士の発信は弁護士の発信ガイドラインで扱っているため、税理士に固有の点を中心にします。
ご注意:この記事は、条文と日税連の資料、名古屋税理士会の冊子に収録された細則を整理したものです。広告の細則は税理士会ごとに定められるため、投稿の可否は所属の税理士会で最終確認してください。
この記事の3行まとめ
① 税理士の広告は原則自由だが、事実と異なる広告、誇大な広告、他の事務所との比較広告などは細則で禁じられている
② 元国税職員の経歴や、依頼者名・取扱事案の掲載には、細則に具体的な制限がある
③ 守秘義務、個別の税務相談、SNSの連絡先の載せ方にも注意が必要
税理士の発信に関わるルールの全体像
| 根拠 | 内容 | 発信での意味 |
|---|---|---|
| 税理士法第37条 | 税理士の信用または品位を害する行為の禁止 | 表現の品位全般の基準 |
| 同法第38条・第54条・第59条 | 業務で知り得た秘密の保持。使用人等も同様。違反は2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(告訴が必要) | 事例紹介、スタッフの投稿、画面の映り込み |
| 同法第40条第3項 | 税理士事務所を二以上設けてはならない | SNSに載せる連絡先・拠点の書き方 |
| 同法第37条の2、日税連会則第61条 | 名義貸しの禁止、非税理士からの業務のあっ旋を受けることの禁止 | 紹介サイトや提携広告 |
| 日税連会則第59条の2 | 不当勧誘、不当広告、報酬額の不明示などの禁止 | 広告・料金表示の基本ルール |
| 各税理士会の細則と運用指針 | 禁止される広告、表示できない広告事項、有価物の供与の禁止など | 具体的な広告ルール |
(出典:税理士法(e-Gov法令検索)、日本税理士会連合会会則(令和8年4月23日変更)、名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月))
日税連の資料は、税理士の広告は規制緩和により原則自由になったとしたうえで、事実に基づかない広告や品位・信用を損なうおそれのある広告は行えないとしています。具体的な基準は、日税連の準則に沿った「業務の広告に関する細則」と「運用指針」です。(出典:日本税理士会連合会「税理士の専門家責任を実現するための100の提案」第24項「業務広告の注意点」)
細則は、広告を「口頭、書面、電磁的方法その他の方法により自己又は自己の業務に関する情報を開示する行為」と定義しています。運用指針は、業務拡大が目的でなくても、自分や自分の業務の情報開示なら広告にあたり、あらゆる媒体が対象だと説明し、インターネットは拡散しやすいため特に注意が必要としています。SNSの投稿やプロフィールも広告として考えましょう。(出典:名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月) 細則第2条と運用指針)
禁止される広告の7類型
細則第3条は、次の7つの広告を禁止しています(表では「誤導・誤認」と「誇大・過度な期待」をまとめています)。運用指針の考え方を整理しました。例は指針の趣旨を言い換えたものです。
| 細則第3条の類型 | 運用指針の考え方 | SNSでの注意例 |
|---|---|---|
| 事実に合致しない | 経歴を偽る、実在しない人物の推薦文、実体のない団体名。証明責任は広告した税理士が負う | 実績・経歴は根拠の資料を残す |
| 誤導・誤認/誇大・過度な期待 | 過度な期待を抱かせやすい。報酬金額の明示自体は禁止されない | 「巧みに節税」「調査が省略される」など結果の保証に読める断定を避ける |
| 困惑・不安をあおる | 納税者の不安を煽って依頼に誘導する | 「今の税理士で大丈夫ですか」型の問いかけを避ける |
| 他の会員・事務所との比較 | 比較の仕方次第で実際以上に優れて見える | 「他の事務所より優れている」と書かない |
| 法令・会則に違反 | 非税理士との提携広告が典型例。景表法・著作権等に反する広告も不可 | 他人の画像や文章を無断で使わない |
| 信用・品位を損なうおそれ | 違法・脱法をほのめかす表現、奇異・低俗な表現 | 「税の抜け道」「究極の節税」を避ける |
(出典:名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月) 細則第3条と運用指針)
元国税職員の経歴・依頼者名・取扱事案の書き方
細則第4条は、次の事項を表示した広告を禁止しています。プロフィールや実績紹介で問題になりやすい部分です。
- 税務行政庁在職時の具体的役職名(管轄地域名を冠した官公署名と役職名の併記)
- 委嘱者(依頼者)の氏名または名称
- 現在取り扱っている、または委嘱されている事案
- 過去に取り扱った、または委嘱された事案
委嘱者の氏名・名称と、現在・過去の事案は、委嘱者の書面による同意がある場合は表示できるとされています(第4条第2項)。同意の書面は広告の記録とともに保存します(第9条)。(出典:名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月))
運用指針は、管轄地域名を冠した役職名の表示は禁止する一方、「元国税職員」のように地域名を冠さない役職名は、事実であれば使えるとしています。ただし、人脈の広さや調査対応への強さをことさら誇示する書き方は表示できないとしています。(出典:名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月) 運用指針4)
SNS運用で押さえる実務ルール
- 氏名・名称と所属会の表示:細則第7条は、広告に氏名または名称と、税理士会の会員である旨を表示するよう求めています。プロフィールに「税理士○○(○○税理士会会員)」と載せると分かりやすいでしょう
- 有価物の提供で広告しない:第5条は、社会的儀礼の範囲を超えた有価物(商品券や贈答品など)を提供して広告することを禁止しています。景品付きのフォロー企画は慎重に
- 面識のない人への勧誘:第8条は、面識のない人に、承諾なしで電子メール等による広告をしてはならないと定めています。SNSのDMが含まれるかは会に確認し、一斉DMは避けます
- 記録の保存:第9条は、広告物と広告をした日時などの記録を、広告の終了から3年間保存するよう求めています。運用指針は、ホームページは書き換えのたびに前のデータを保存するとしています。SNSも投稿画面を保存しておくと安全です(扱いは会に確認)
- 連絡先の載せ方:日税連の資料は、SNSへの連絡先の掲載も事務所の「外部に対する表示」にあたり得ると説明しています。複数拠点の連絡先を載せるときは、事務所を二つ以上設けない決まり(法第40条第3項)に触れないか確認します
- 紹介サイト・提携広告:非税理士との提携広告は、細則第3条第6号の典型例です。非税理士から業務のあっ旋を受けることも日税連会則第61条で禁止されています
(出典:名古屋税理士会 綱紀監察部「綱紀のしおり〈四訂版〉」(令和6年3月)、日本税理士会連合会「税理士の専門家責任を実現するための100の提案」第24項「業務広告の注意点」、日本税理士会連合会会則(令和8年4月23日変更)、税理士法(e-Gov法令検索))
守秘義務と個別相談の扱い
税理士法第38条は、正当な理由なく、税理士業務で知り得た秘密を他に漏らし、または盗用してはならないと定め、第54条は使用人その他の従業者にも同じ義務を課しています。違反は罰則の対象で、告訴がなければ公訴を提起できません(第59条)。日税連の資料は、「他に漏らす」には、結果として漏れる場合も含まれ、メールの誤送信も含むと説明しています。(出典:税理士法(e-Gov法令検索)、日本税理士会連合会「100の提案」第36項「お客様の秘密を守る(守秘義務)」)
SNSでは、画面に映り込んだ依頼者の名前、誤って公開した書類、スタッフの個人アカウントでの発言が漏えいの経路になります。事例は一般化し、依頼者を特定できる情報は載せません。載せたいときは前の章のとおり書面の同意が必要です。
コメントやDMでの個別相談にも注意が必要です。税理士は、税務相談の内容とそのてん末を、委嘱者別・一件ごとに帳簿へ記載します(法第41条)。コメント欄で個別の質問に答え始めると、記録や委嘱の整理があいまいになります。個別の相談は面談や電話、専用フォームに案内し、投稿では一般的な解説にとどめます。(出典:税理士法(e-Gov法令検索))
投稿テーマの書き方(節税・確定申告・税制改正)
税務の解説は、条件と日付をつけて書くのが基本です。税理士法第36条は脱税相談等を禁止しています。節税は、適用できる条件と、できない場合を併記します。
| テーマ | 確認先 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 確定申告・所得税などの一般的な疑問 | 国税庁のタックスアンサー、各税目の手引き | 最新の改正は手引きで確認する(タックスアンサーは改訂作業中との案内がある) |
| 税制改正・節税の紹介 | 国税庁の法令解釈通達、e-Gov法令検索 | 公布日・施行日・対象者を分け、「必ず」「誰でも」を使わず要件を書く |
(出典:国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)」、税理士法(e-Gov法令検索)。「書き方のポイント」は本記事の運用上の例です)
運用体制の作り方
税理士法第41条の2は、使用人その他の従業者を監督する義務を定めています(税理士法(e-Gov法令検索))。SNSを職員に任せる場合も、確認の流れを決めておきます。
- 企画と下書き:申告や改正の時期から逆算して一般的な質問を選び、担当者が一次情報を添えて作る
- 確認:税理士本人が、断定表現、依頼者情報、比較・不安をあおる表現、日付を見る
- 公開と保存:公開内容をスクリーンショット等で記録し、3年を目安に保存する。改正のあった投稿は修正または削除する
ルール作りはSNS運用ガイドライン作成テンプレ、士業全体の考え方は士業のSNS活用完全ガイド、動画での発信は士業のYouTube連動戦略も参考になります。
よくある失敗
- 「節税額○○万円」「顧問先○○社」などの数字を、根拠の資料なしで載せる
- 「元○○税務署長」と、管轄地域名つきで経歴を載せる
- 依頼者の名前や取扱事案を、同意なしで事例として紹介する
- コメント欄で、個別の税務相談に答えてしまう
よくある質問(Q&A)
Q. 「顧問先100社」などの実績を載せてもよいですか?
A. 細則は、事実に合致しない広告を禁止し、事実の証明責任は広告をした税理士が負うとしています。数字を載せるなら、数え方と時点を示せる資料を残し、委嘱者の名称を出すときは書面の同意を得ます。
Q. 「元国税職員」とプロフィールに書いてもよいですか?
A. 運用指針は、地域名を冠さない役職名は、事実であれば使えるとしています。ただし、人脈や調査対応への強さを誇示する書き方は表示できません。所属会の運用も確認してください。
Q. 税理士会の細則は、どこで確認できますか?
A. 広告の細則は各税理士会が定めています。今回は日税連の資料と、名古屋税理士会の冊子に収録された細則・運用指針を確認しました。最新の内容は所属の税理士会で確認してください。
まとめ
税理士のSNS運用は、税務の知識を分かりやすく届けつつ、細則の禁止事項を守ることが基本です。事実に合致しない広告や誇大・比較広告を避け、元国税職員の経歴や依頼者名の見せ方に注意し、守秘義務と個別相談の扱いを決めておきます。広告の記録を残し、所属の税理士会の規則に従いましょう。

