SaaS企業のSNS戦略

SaaS企業のSNS戦略のアイキャッチ画像

SaaSは形のないサービスで、買ってもらうまでに「何ができ、いくらか」を伝える必要があります。SNSは、機能や使い方の発信、無料トライアルへの誘導、導入後のお客様とのつながりに使えます。ただ、SaaSのSNSはトライアルまでの導線と表示の正確さが重要です。

この記事では、トライアル導線を各SNSの公式仕様で整理し、事例の掲載許諾、料金・機能・実績の誇大表現、社員やアンバサダーの発信とステマ規制を扱います。法令や仕様は公式の原文で確認できた範囲を書き、運用のコツは「例」と明記します。BtoB全体の設計はBtoB SNSマーケティング完全ガイドへ。

この記事の3行まとめ

① 広告で集めたリードは保存期限(Metaは90日、LinkedInは1年)があるため、CRM連携か早めのダウンロードを前提にする
② 「No.1」「〇%削減」「業界最安」などの表示は、根拠資料を先にそろえる
③ 社員・アンバサダー・お客様の発信を依頼する場合は、広告であることが分かる形にし、事例は掲載範囲を書面で確認する

SaaSのSNSの流れ:認知からトライアル、導入後まで

SNSが担える役割の例です(段階分けは一般的な考え方の例)。

段階SNSでやること(例)見る数字(例)
認知機能・課題の解説、業界の話題インプレッション
比較検討導入事例、ウェビナーの告知サイト訪問、資料請求
トライアル無料トライアルへの導線、使い方動画トライアル登録数、登録率
導入後アップデート情報、活用Tips継続利用、問い合わせ

指標はSNS運用のKPI設定完全ガイドも参考にしてください。

無料トライアルへの導線:各SNSの公式仕様

連絡先を集める方法は、広告の「リード獲得フォーム」と、自社サイトの登録ページへの誘導の2通りです。公式ヘルプで確認できた主な仕様です。

SNS公式ヘルプで確認できた内容
LinkedInLead Gen Formsは、広告のボタンをクリックした会員のプロフィール情報を自動入力する。選べる項目は最大12、独自質問は最大3つで、プライバシーポリシーのURLが必要。入札はクリック単価かインプレッション単価で、リード単価課金はできない。(出典:LinkedInヘルプ(Lead Gen Forms)、LinkedInヘルプ(Lead Gen Formのベストプラクティス))
Meta(Facebook・Instagram)インスタントフォーム付きのリード獲得広告を、FacebookページやMeta広告マネージャなどから作成できる。リードはCSVでダウンロードでき、18歳未満は対象にできない。(出典:Metaビジネスヘルプ(リード獲得広告の作成))
Xキャンペーン目的は、リーチ、動画視聴、アプリインストール、エンゲージメント、ウェブサイトコンバージョンが掲載されている。ウェブサイトコンバージョンは、リンク先にXピクセルの基本コードとイベントコードの実装が必要。(出典:X for Business(キャンペーン目的)、X for Business(ウェブサイトコンバージョン))

LinkedInは、フォーム項目を3〜4項目にすると変換率が改善する可能性が高いと案内しています。Metaも、質問数を少なくし、多肢選択式の質問でリードの質を上げることを勧め、短期間に大量のリードが集まると営業の対応が追い付かなくなるため、広告スケジュールで調整するよう案内しています。(出典:LinkedInヘルプ(Lead Gen Formのベストプラクティス)、Metaビジネスヘルプ(リード獲得広告のベストプラクティス))

リードの保存期限とCRM連携

Metaは、リードのデータをダウンロードできるのはフォーム送信から最長90日間で、CRMの利用か頻繁なダウンロードを勧めています。(出典:Metaビジネスヘルプ(期限切れのリード))LinkedInのヘルプには、収集した会員のプロフィールデータは1年間しか保存できないと記載されています。(出典:LinkedInヘルプ(リードのダウンロード))連携先を決めてから広告を出しましょう。Metaのフォームでは、口座番号、健康情報、政府発行の識別番号などを尋ねる質問が禁止されています。(出典:Metaビジネスヘルプ(禁止されている質問))

LinkedInで資料を渡す場合、公式ヘルプは、LinkedInが広告主に代わって自動で送ることはなく、サンクスメッセージにゲートのないリンクを入れるか、ダウンロードしたリードにメールで送るよう案内しています。(出典:LinkedInヘルプ(Lead Gen Formのベストプラクティス))個人情報は、利用目的をできる限り特定し、取得時に本人へ通知または公表する必要があります。(出典:個人情報保護法第17条・第21条)広告の始め方は低予算から始めるSNS広告完全ガイドも参考になります。

お客様事例の掲載:許諾の取り方(例)

導入事例は強力な素材ですが、社名・ロゴ・担当者の氏名や顔写真・数値は、載せる前の確認が必要です(運用上の例)。

  • 契約の確認:契約書に事例掲載の定めがないか
  • 範囲を分けた承諾:社名、ロゴ、担当者の氏名・写真・コメント、数値を項目ごとに確認し、記録を残す
  • 数値の根拠:「〇%削減」は計測条件(期間・範囲)を併記し、承諾を得る
  • 取り下げ対応:掲載終了の依頼への手順と期限を決める

氏名などで特定の個人を識別できる情報は個人情報です。(出典:個人情報保護法第2条)担当者の氏名や顔写真を出す場合は本人にも確認しましょう。特許庁は、商標を、事業者が自社の商品・サービスを他社と区別するために使うマークと説明しています。(出典:特許庁(商標制度の概要))お客様のロゴは許諾を取って使うのが安全です。

料金・機能・実績の表示:誇大表現を避ける

景品表示法第5条は、品質などを「一般消費者」に対して実際より著しく優良と示す表示(優良誤認)や、価格などの取引条件を著しく有利と誤認させる表示(有利誤認)を禁止しています。(出典:景品表示法第5条、消費者庁(優良誤認とは)、消費者庁(有利誤認とは))条文は一般消費者向けの表示が対象のため、法人専用のSaaSへの適用は個別の判断になります。ただし事業者間でも、不正競争防止法は、品質・内容などを誤認させる表示(第2条第1項第20号)や、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(同第21号)を不正競争としています。(出典:不正競争防止法第2条第1項第20号・第21号)

表示注意点(公式で確認できた内容)
効果・数値(〇%削減など)消費者庁は、優良誤認に当たるか判断するため、合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、提出されない場合は措置命令との関係で不当表示とみなされるとしています。(出典:消費者庁(不実証広告規制))
No.1・満足度〇位消費者庁の実態調査は、合理的な根拠として、比較対象が適切、調査対象者が適切、調査が公平、表示内容と調査結果が対応、の4点を示しています。(出典:消費者庁(No.1表示に関する実態調査))
競合との比較表比較広告が不当表示とならないためには、内容の客観的な実証、数値・事実の正確で適正な引用、比較方法の公正さが必要とされています。(出典:消費者庁(比較広告))
有料・無料、月額の表示インターネット情報提供サービスで利用料金がかかる場合は有料である旨を、毎月料金を徴収する長期契約の場合はその旨を、正確かつ明りょうに表示する必要があるとされています。(出典:消費者庁(インターネット上の広告表示))

最後の行は消費者向けの留意事項ですが、「トライアル後に課金されるか」「契約期間は何か月か」を明記するのは、法人向けでも誤解を防ぐ基本です。個別の判断は専門家へ。

社員・アンバサダーの発信とステルスマーケティング

消費者庁によると、令和5年10月1日から、広告であるのに広告であることを隠すステルスマーケティングは景品表示法違反です。規制の対象は広告主である事業者で、企業が依頼したインフルエンサー等の第三者は対象ではありません。(出典:消費者庁(ステルスマーケティング))運用基準は、事業者と一体と認められる従業員(販売や開発に係る役員、管理職、担当チームの一員など)が販売促進のために行う表示や、事業者が第三者にSNS等で自社商品を表示させる場合は、事業者の表示に当たり得ると示しています。(出典:消費者庁(ステマ告示の運用基準))この規制も「一般消費者」が前提ですが、BtoB向けでも広告と分かるようにしておくと誤解を避けられます(運用上の例)。

LinkedInには、社員の投稿を広告にする「Thought Leader Ads」があります。公式ヘルプによると、投稿者の許可、フルネームの表示、投稿の公開が条件です。(出典:LinkedInヘルプ(Thought Leader Ads))投稿者には、会社との関係の開示(肩書や「#SponsoredPost」等のハッシュタグ)も案内されています。(出典:LinkedInヘルプ(スポンサー依頼の管理))

SaaSのSNSのよくある失敗

失敗例対処
リードを集めたが、保存期限内にCRMへ入れていなかった連携先を決めてから広告を出す。毎週ダウンロードする
「業界No.1」の根拠が調査会社任せだった調査の対象・方法を自社で確認し、根拠資料を保管する
お客様のロゴと数値を、社名だけの承諾で載せた項目ごとに承諾を取り、記録を残す

よくある質問(Q&A)

Q. スタートアップ初期でも、SNS広告でリードを集めるべきですか?
A. 広告は必須ではありません。LinkedInの公式ヘルプは、配信に必要な最小オーディエンスを300アカウント、成果のためには5万以上を推奨しています。市場が小さい場合は、まず自社アカウントでの発信からでも構いません。(出典:LinkedInヘルプ(オーディエンスサイズ))

Q. 導入企業の社名を、事例として載せるのに許可は必要ですか?
A. 契約や取引関係の問題です。契約書の定めを確認し、範囲を決めて、書面やメールで承諾を残すのが安全です。

Q. 「業界最安」と書いてよいですか?
A. 比較する以上、客観的な根拠が必要です。消費者庁の比較広告の考え方では、主張内容が客観的に実証されていることなどが求められます。根拠資料を保管しましょう。(出典:消費者庁(比較広告))

まとめ

SaaSのSNSは、トライアルまでの導線を各SNSの仕様に合わせて作り、保存期限を踏まえてCRMにつなぐことが土台です。そのうえで、事例の許諾、No.1・効果・料金表示の根拠、社員やアンバサダーの発信の明示を、公開前のチェックにしましょう。

最初の一歩は、今使っている「実績・数値・No.1」の表示を一覧にし、根拠資料を確認することです。

参考情報・出典