弁護士のSNS発信は、法律の知識を分かりやすく届ける「法律教育」と、依頼につながる「相談導線」の両方に役立ちます。一方で、弁護士の業務広告には、日本弁護士連合会(日弁連)の規程と指針による制限があります。一般企業と同じ感覚で「必ず解決します」「着手金0円」と書くと、規程に触れるおそれがあります。
この記事では、日弁連の「業務広告に関する指針」で示されている考え方を、SNS運用の担当者や弁護士本人が実務で使える形に整理します。投稿の企画から、禁止される表現、守秘義務、ダイレクトメッセージの扱い、記録の保存までを順に説明します。
ご注意:この記事は日弁連の指針の要点を整理したものです。個別の投稿が規程に適合するかは、条文・最新の指針と、所属の弁護士会の運用に照らして最終判断してください。
この記事の3行まとめ
① SNSや動画サイトは、媒体そのものが禁止されているわけではない。ただし表現が規程に反すれば違反になる
② 虚偽・誤導・誇大・比較・品位を損なう表現のほか、勝訴率や、依頼者の同意がない事件の掲載は表示できない
③ 面識のない人へのDMでの勧誘や、実績・体験談の見せ方には特に注意が必要
弁護士の広告に適用されるルールの全体像
弁護士の業務広告は、日弁連の「弁護士等の業務広告に関する規程」(会規第44号)が基本となります。規程の解釈と運用の基準を示すものが、「業務広告に関する指針」です。指針は理事会で議決され、事例の集積にあわせて改正されており、令和8年2月19日にも改正されています。(出典:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版))
指針は、広告の媒体について「ウェブサイト、動画サイト、SNS等のあらゆる媒体が広く利用できるものであり、媒体自体から直ちに一般的に禁止されるものはない」としています。そのうえで、広告の方法や表示の形によっては、規程第3条の各号に違反することがあるとしています。つまり、SNSを使うこと自体は問題ではなく、何をどう書くかが問われるという整理になります。
どこからが「広告」になるのか
指針では、広告にあたるかどうかは、弁護士本人の主観だけでなく、広告の内容や出された状況などを総合して判断するとされています。顧客を誘引することが主な目的かどうかが基準になります。
SNSについては、指針に具体的な言及があります。特定の法律問題を解説する動画をSNSや動画サイトに上げ、「弁護士某」と表示して事務所の名称や連絡先を載せること自体は、顧客誘引が主な目的とは必ずしも判断されないとされています。ただし、「○○の相談は当事務所へ」のような誘引の文言を最後に出す場合はもちろん、そうした文言がなくても、動画の趣旨が全体として顧客誘引にあたると認められる場合があるとされています。(出典:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版) 第2の2)
実務では「法律解説の投稿は情報提供のつもりでも、広告と判断される可能性がある」と考えて、広告としても問題がない表現で統一しておくのが安全です。
規程第3条で禁止される7つの広告
指針は、規程第3条で規制される広告を、次の7つの類型に分けて例を示しています。
| 類型 | 内容 | 指針が示す例 |
|---|---|---|
| 虚偽(事実に合致しない) | 経歴を偽る、架空の事例・実在しない推薦文など | お客様の声として、実在の依頼者が関与していない文章を載せる |
| 誤導・誤認のおそれ | 事実を含んでいても誤解を招く表現 | 「業界最低水準の弁護士報酬」「着手金0円~」などの曖昧・不正確な報酬の表現 |
| 誇大・過度な期待 | 結果を保証するように読める表現 | 「当事務所ではどんな事件でも解決してみせます」 |
| 困惑・過度な不安をあおる | 不安をあおって依頼を促す表現 | 「今すぐ請求しないとあなたの過払金は失われます」 |
| 他の弁護士・事務所との比較 | 特定の弁護士や事務所と比べる表現 | 「○○事務所より豊富なスタッフ」 |
| 法令・会則に違反 | 他人の権利の侵害、不当表示など | 著作権・プライバシー侵害となる広告、景品表示法に違反する広告 |
| 品位・信用を損なうおそれ | 奇異・低俗・不快な表現 | 「用心棒弁護士」の表現、ことさら悲惨な場面を使った広告 |
(出典:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版) 第3)
SNS投稿で特に注意したい表現
実績・数字・称号の書き方
- 勝訴率は表示できません。指針は、訴訟事件の勝訴率の表示を誤導のおそれがある広告の例として挙げています。(第4の2)
- 最大級・完全・結果を保証する言葉は注意が必要です。「最も」「一番」「完璧」「常勝」「不敗」などは、文脈によって事実に合わない、誤導・誇大な広告にあたり得るとされています。(第3の13)
- 専門家を自称する表現は控えるのが望ましいとされています。「専門」「スペシャリスト」「プロ」「エキスパート」などです。一方、「得意分野」は主観的な評価であることが明らかなため、得意でない分野を載せない限り、規程に違反しないとされています。(第3の12)
- 役職・前職を使って有利な解決を期待させる表現は避けます。「元特捜部検事 検察庁に対する押しが違います」のような表現が例示されています。(第3の11)
報酬・料金の書き方
「割安な報酬で事件を受けます」「業界最低水準」といった曖昧な表現や、実際には他の名目で費用がかかるのに「着手金0円」と書く表現は、誤導のおそれがあるとされています。料金を載せる場合は、何にいくらかかるのかが誤解なく伝わるように、報酬の種類・金額・算定方法・支払時期を具体的に示すのが基本です。実費を別に徴収する場合は、その旨を明記することが望ましいとされています。(第3の3(3)(4))
キャッチフレーズ
キャッチフレーズは、抽象的で説明が足りないため誤解や過度な期待を与えかねないとして、表現に十分な注意が求められます。一方で、「市民の味方です」「懇切丁寧にやります」「闘う弁護士」「モットーは迅速第一」のような表示は、事実に反しない限り許されるとされています。(第3の10)
守秘義務・事例紹介の注意点
SNSで事例を紹介したいときに最も慎重になるべき点が、守秘義務です。規程第4条は、次の4つを表示できない広告事項として定めています。
- 訴訟の勝訴率
- 顧問先または依頼者(書面または電磁的方法による同意がある場合を除く)
- 受任中の事件(依頼者の同意がある場合などを除く)
- 過去に取り扱い、または関与した事件(依頼者の同意がある場合、広く一般に知られている事件で依頼者の利益を損なうおそれがない場合、依頼者が特定されず利益を損なうおそれがない場合を除く)
指針は、依頼者や事件の表示について、守秘義務にかかわる事項だと整理しています。同意を得る場合は、守秘義務に関する争いを避けるため、同意の範囲や有効期限などを明示して得る必要があるとされています。また、「依頼者の名前を出していないから問題ない」とは限らず、依頼者が実際に特定されていないかを個別具体的に判断するとされています。(出典:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版) 第4)
実務の運用としては、事例は次のように扱うと安全です。
- 実際の事件ではなく、「よくある相談」を一般化して解説する形にする
- 実際の事件を使うときは、依頼者の書面(または電磁的方法)の同意を、範囲と期限を明記して取る
- 「解決事例」を載せる場合も、架空の事例や脚色は虚偽にあたるため、事実どおりに書く
ダイレクトメッセージと「お客様の声」の扱い
規程第5条第2項は、面識のない人に対して、電子メールやSNSのメッセージ機能などで広告を送ることを禁じています。指針は、SNS上で「友だち」登録や「相互フォロー」をしていても、規程との関係では「面識のない者」にあたり、承諾を得たことにはならないとしています。フォロワーに向けて一斉に勧誘のDMを送る運用は避けてください。(出典:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版) 第5)
また、「お客様の声」や感想の掲載では、実在の依頼者が関与していない文章を載せることが虚偽の例として挙げられています。依頼者が実在し、内容に同意していることを前提に、守秘義務の観点も合わせて確認します。
SNS運用の進め方(実務のチェックリスト)
- 投稿の方針を決める:法律解説、よくある質問への回答、最新の制度改正の解説など、依頼者が特定されない一般的な内容を中心にする
- 公開前に確認する:誇大表現、比較、不安をあおる表現、勝訴率や依頼者情報が入っていないかを見る。動画は、制作者や出演者と事前に打ち合わせて規程に反しないようにすることが望ましいとされています(第3の17)
- 誘導の文言を整える:相談の案内は、事実に即して控えめに(料金や対応範囲は正確に)
- DMでの勧誘をしない:問い合わせは、受け身の窓口(フォーム・電話番号)で受ける
- 記録を保存する:広告をした日時・内容・方法などの記録を、広告が終わってから3年間保存する(規程第11条、第8の4)。SNSの広告の場合は、URLを含めてデータや印刷物で残す
どのSNSが向いているか
特定のSNSが規程上有利になるわけではありません。選ぶ基準は、「相談したい人がどこで情報を探しているか」と「自分が無理なく続けられる形式か」です。文章で法律の考え方を示すのが得意ならX、図解を使うならInstagram、顔と声で信頼を作りたいならYouTubeが候補です。どの媒体でも、投稿ごとに上の注意点を同じ基準で確認します。SNS全体の考え方は、士業のSNS活用完全ガイドも参考にしてください。
よくある質問(Q&A)
Q. 弁護士がSNSで集客することは問題ありませんか?
A. SNSなどの媒体自体は禁止されていません。指針は、媒体自体から直ちに一般的に禁止されるものはないとしています。ただし、表現が規程第3条などに反すると違反になります。
Q. 「相談実績1,000件」と書いてもいいですか?
A. 数字が事実であっても、数え方によっては誤導とされることがあります。指針は、記載された事項が事実に合致するかどうかにかかわらず誤導にあたり得る例を示しており、その中には、種類の違う事件を合算して、あたかも特定分野に習熟しているかのように見せる表現があります。実績の数字は、対象・期間・件数の数え方を正確に示してください。
Q. 専門分野を絞って発信するのはよいですか?
A. 分野を絞って発信すること自体は有効です。ただし、「専門」「エキスパート」といった表現は控えるのが望ましいとされているため、「取扱い分野」「積極的に取り組んでいる分野」といった表現を使います。(第3の12)
Q. ステルスで、自分のことを推薦するような投稿をしてもいいですか?
A. 避けてください。実在しない人物の推薦文は虚偽の例として挙げられています。第三者の口コミや推薦文を載せる場合でも、全体を観察して弁護士本人の広告と認められるときは、その内容も規程に照らして判断されます。(第2の1、第3の2)
まとめ
弁護士のSNS発信は、「法律を分かりやすく伝える」ことで信頼を積み上げ、相談につなげることが基本です。一方で、虚偽・誤導・誇大・比較・品位を損なう表現、勝訴率や依頼者情報の掲載、面識のない人へのDM、記録の保存といった点で、日弁連の規程と指針の確認が欠かせません。投稿前のチェックリストを用意して、複数人で確認する体制を整えてから、継続して発信しましょう。
参考情報・出典
- 日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(令和8年2月19日改正版)
- 日本弁護士連合会:公式サイト(「弁護士等の業務広告に関する規程」「業務広告に関する指針」の最新の本文はこちらで確認できます)

