社労士のSNS運用

社労士のSNS運用のアイキャッチ画像

社会保険労務士(社労士)にとってSNSは、経営者や人事担当者に「この先生なら労務の相談ができそうだ」と知ってもらう入口になります。就業規則、社会保険の手続、助成金など、企業が日々迷うテーマが多く、解説の発信と相性がよい仕事です。

一方で、社労士の発信には、社会保険労務士法と全国社会保険労務士会連合会(連合会)の会則という二層のルールがあります。この記事では、原文で確認できた範囲だけを使い、広告・勧誘、助成金の書き方、守秘義務、「社労士」という名称の扱い、問い合わせ導線、運用体制を整理します。

ご注意:この記事は条文と連合会の資料の要点を整理したものです。広告の細かい基準は、所属する都道府県の社会保険労務士会の規則や指導が前提です。個別の投稿の可否は、所属の会に確認してください。

この記事の3行まとめ

① 連合会会則は、誇大・虚偽の広告・宣伝や、承諾のない電子メール広告を禁止している
② 助成金などの解説が、不正な受給や保険料の免脱の指南にならないよう、連合会が会長声明で注意を促している
③ 「社労士」の名称は社労士だけが使える。事例の掲載は守秘義務と個人情報保護法の両方を確認する

社労士の発信に関わるルールの全体像

発信に関係する決まりは、法律と連合会会則に分かれます。原文で確認できたものを表にまとめます。

根拠内容発信での意味
社労士法第1条の2常に品位を保持し、法令と実務に精通して、公正な立場で誠実に業務を行う投稿のトーンにも当てはまる基本姿勢
同法第16条社労士の信用または品位を害する行為の禁止過度に煽る表現や不適切な話題の選び方に注意
同法第15条・第32条不正な保険給付の受給や保険料の免脱などの違反行為の指示・相談の禁止(3年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金)節約や受給の「裏技」の紹介は避ける
同法第21条・第27条の2業務で知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならない(使用人等も同様)事例紹介と、アカウントを動かす従業員の双方に関わる
連合会会則第43条の3・第43条の4勧誘時の氏名・目的の明示、不当な勧誘と誇大・虚偽の広告の禁止、承諾のない電子メール広告の禁止広告・勧誘の運用ルール

(出典:社会保険労務士法(e-Gov法令検索)、全国社会保険労務士会連合会会則(令和6年11月29日施行))

広告そのものについて会則が置いている規定は第43条の4です。表示してよい内容を細かく示した基準は、今回確認できた範囲にはなく、この部分は「所属の会の規則で確認」とするのが正確です。

広告・勧誘で守る4つのこと

連合会会則の第43条の4は、社労士会の会員に対して、次の4点を定めています。SNSの投稿やプロフィールにも当てはめて考えられます。(出典:全国社会保険労務士会連合会会則(令和6年11月29日施行))

  1. 不実のことを告げない(第1項):業務の内容、報酬など、相手の判断に影響する重要な事項について、不実を告げたり、故意に事実を告げずに勧誘したりしない
  2. 依頼しない意思を示した人に勧誘しない(第2項):断られた相手に、しつこく依頼を求めない
  3. 誇大・虚偽の広告をしない(第3項):誇大もしくは虚偽の事項により、相手をだますおそれがある方法で広告・宣伝を行わない
  4. 承諾なしにメール広告を送らない(第4項):相手の承諾を得ずに、電子メールで広告を送信しない

第43条の3は、勧誘に先立って氏名、勧誘の目的であること、業務の内容を明らかにすること、受任の際に業務の内容と報酬などを書面の交付等で明示して十分に説明することも求めています。SNSでは、事務所名と担当者名を載せ、料金は契約前に書面で示せる形にしておくのが無理のない運用です。

第4項は「電子メール」と書かれており、SNSのDMが含まれるかは文言から読み取れません。承諾のない相手への一斉DM勧誘は避け、迷うときは所属の会に確認してください。

助成金・労働法改正の投稿で注意すること

助成金や法改正は発信の定番ですが、連合会は会長声明で注意を呼びかけています。平成27年12月25日の声明は、労働条件を不当に引き下げることを助長する就業規則の作成、社会保険料を不当に引き下げる脱法的行為、雇用関係の助成金等の不適切な方法による受給等を指南するような広告がインターネット等で見られるとして、倫理綱領に定める品位保持の観点から自らの行為を律するよう注意を喚起しています。(出典:全国社会保険労務士会連合会「「社会保険労務士による不適切な情報発信」に関する会長声明」(平成27年12月25日))

  • 「必ずもらえる」と書かない:受給できるかどうかは、制度ごとの要件によって決まります。「条件を満たしている場合に利用できる可能性があります」のように、条件つきで書きます
  • 制度の変更は日付を添える:厚生労働省の助成金ページには、共通要領のQ&Aの更新や廃止された要件のお知らせが載っています。投稿には「○年○月時点」と確認元を書き、最新は公式で確認するよう案内します(厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」)
  • 公的機関との関係を匂わせない:厚生労働省は、同省の委託事業者を名乗って助成金の無料査定などをうたう勧誘に注意を呼びかけています。「厚労省認定」などと誤解させる表現は避けます(同上)

テーマ別の一次情報の確認先

投稿テーマの例最初に確認する場所書き方のポイント
労働法・社会保険の法改正e-Gov法令検索、厚生労働省の公式ページ公布日と施行日を分けて書く。条文番号を添える
助成金の紹介厚生労働省の助成金ページ、管轄の労働局「要件に該当すれば」という書き方にし、受給額を断定しない

(出典:社会保険労務士法(e-Gov法令検索)、厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」。「書き方のポイント」は本記事の運用上の例です)

守秘義務と個人情報の扱い

社労士法第21条は、開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員が、正当な理由なく業務で知り得た秘密を漏らしたり盗用したりすることを禁じ、第27条の2は同じ義務を使用人その他の従業者にも課しています。違反には1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が定められ、告訴がなければ公訴を提起できません(第32条の2)。(出典:社会保険労務士法(e-Gov法令検索))

連合会は、個人情報の保護措置を整えた事務所を認証する「SRP認証制度」を設けています。(出典:全国社会保険労務士会連合会「社労士事務所における個人情報保護」)

事例を扱うときは、個人情報保護法も確認します。同法第27条は、個人情報取扱事業者が、一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供してはならないと定めています。(出典:個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索))運用としては、次の形が安全です。

  • 実際の相談ではなく、「よくある質問」を一般化して解説する
  • 顧問先の話を載せるときは、会社と従業員の双方が特定されないかを確認し、必要なら書面で同意を取る
  • 従業員名・給与額など、個人が特定できる情報はスクリーンショットにも写さない
  • コメント欄やDMで個人情報を書き込ませず、専用フォームや電話に案内する

「社労士」の名称と専門性の見せ方

社労士法第26条は、社労士でない者が「社会保険労務士」「社労士」その他これに類似する名称を使うことを禁止しています。第27条は、社労士でない者が、報酬を得て、申請書等の作成や提出の代行、帳簿書類の作成などを業として行うことを禁止しています。補助者や外部の運用担当者がアカウントを動かす場合も、自分が社労士であるかのように名乗らないことが必要です。(出典:社会保険労務士法(e-Gov法令検索))

また、あっせんや調停など紛争解決手続の代理は、社労士の業務としては付記を受けた特定社会保険労務士に限られます(第2条第2項)。付記がなければ「紛争の代理もできます」と読める表現は避けます。(出典:社会保険労務士法(e-Gov法令検索))

「専門」「得意」などの表現の可否を示した規定は、連合会の資料では確認できませんでした。この点は所属の会の規則に従います。実務では、「取り扱い分野」や「対応している手続」を事実のとおり書き、実績の数字は数え方まで示せるものだけを載せるのが安全です。

問い合わせ導線と無料相談の置き方

導線の文面も広告の一部です。プロフィールから相談窓口までは、次の点を押さえて短く作ります。

  • プロフィールに、事務所名、対応している業務、相談方法(フォーム・電話)を載せる
  • 「初回無料」とするなら、時間、回数、対象、無料の範囲を書く。無料の後に費用が発生する場合は、その旨を明記する
  • 料金を載せるなら、含まれる業務、含まれない業務、追加費用の条件を併記する(会則第43条の3に沿う)
  • 相談内容の入力は、個人情報を扱う専用フォームに誘導する

運用体制の作り方

従業員や外部に任せる場合は、役割と確認の流れを先に決めます。投稿の流れは次のように組むと混乱が少なくなります。

  1. 企画と作成:個別案件ではなく一般的な質問から選び、条文番号や制度名を添えて下書きを作る
  2. 確認:社労士本人が、断定表現、守秘情報、制度の日付、名称の使い方をチェックする。制度改正のときは古い投稿も見直す
  3. 公開と記録:公開日時、内容、リンク先を記録する(保存義務の有無は会則で確認できなかったため、所属の会に確認)

ルール作りには、SNS運用ガイドライン作成テンプレが使えます。炎上や誤情報の対応はSNS炎上対策マニュアル(中小企業版)、士業全体の考え方は士業のSNS活用完全ガイドも参考にしてください。連合会は全会員に5年に1回の倫理研修を義務づけており、運用担当者にも共有しておくと役立ちます。(出典:全国社会保険労務士会連合会「倫理研修」、全国社会保険労務士会連合会会則(令和6年11月29日施行) 第47条の2)

よくある失敗

  • 助成金の記事で、「申請すれば必ず受給できます」と断定する
  • 制度改正の前の情報を、日付なしで残し続ける
  • 顧問先の事例を、会社名を伏せただけで載せ、業種や規模から特定される
  • 承諾を得ていない相手に、勧誘のDMやメールを一斉に送る

よくある質問(Q&A)

Q. 助成金の情報を発信するとき、「必ずもらえる」とは書けませんか?
A. 連合会会則は、誇大もしくは虚偽の事項により相手をだますおそれがある広告・宣伝を禁止しています(第43条の4第3項)。受給の可否は制度ごとの要件によるため、「条件を満たす場合に利用できる可能性がある」と書き、最新は厚生労働省の案内で確認するよう添えます。

Q. 顧問先での解決事例を載せてもよいですか?
A. 社労士法第21条の守秘義務があり、個人データを含む場合は個人情報保護法の同意の問題もあります。会社や従業員が特定されないかを確認し、必要に応じて書面で同意を得ます。迷う場合は、一般化した「よくある質問」の形にします。

Q. 広告の表示について、細かい基準はどこで確認できますか?
A. 原文で確認できた範囲では、連合会会則第43条の3・第43条の4が中心でした。それより細かい基準は、所属する都道府県の社会保険労務士会に確認してください。

まとめ

社労士のSNS運用は、企業の労務の悩みに答える情報を、条文や公的資料に沿って発信することが基本です。連合会会則が誇大・虚偽の広告や承諾のない電子メール広告を禁じていること、会長声明が不適切な情報発信に注意を促していること、守秘義務と個人情報保護、「社労士」の名称の扱いを運用の前提にしてください。投稿前の確認の流れを決めてから、継続して発信しましょう。

参考情報・出典