学習塾は、入塾を決める人と通う人が違うのが特徴です。小学生・中学生の場合、塾を選ぶのは保護者であることが多く、保護者は「先生は信頼できるか」「合格実績は本当か」「費用はいくらかかるか」を見ています(一般的な傾向)。SNSは、授業の雰囲気や先生の人柄を伝える場として使えますが、合格実績や料金の表示、子どもの写真には、守るべきルールがあります。
この記事では、学習塾に固有の論点として、合格実績の表示、講師紹介と保護者の声、生徒の写真・氏名の扱い、入塾案内と特定商取引法を、公式の資料と業界団体の基準で確認できた範囲でまとめます。教室全般の運用は教室ビジネスのSNS集客、保護者との連絡は習い事教室のLINE公式活用をご覧ください。
この記事の3行まとめ
① 保護者向けの発信が中心。生徒向けはInstagramを13歳以上の利用に限る規約を踏まえ、見せ方を分ける
② 合格実績は、数え方の基準と表示範囲を決めて根拠を残す。消費者庁は合格者数や講師の経歴の誇大な表示に措置命令を出している
③ 生徒の顔・氏名は保護者の同意を得てから。学習塾は特定継続的役務提供(2か月を超え5万円を超える契約)の対象
保護者と生徒、誰に何を見せるか
Instagramの利用規約は、利用できる方を13歳以上または自国の法定年齢に達している方としています。(出典:Instagram利用規約)そのため、小学生向けの塾では、発信の相手は保護者が中心になります。中学生以上は生徒本人も見ますが、保護者が見ても安心できる内容に統一しておきます(運用上の考え方)。
| 投稿ネタ(例) | 主な読み手 | 注意するルール |
|---|---|---|
| 授業・自習室の風景 | 保護者 | 映る生徒の同意(後述) |
| 講師紹介 | 保護者・生徒 | 経歴・指導実績は事実のみ |
| 学習のコツ・入試情報 | 生徒・保護者 | 日程や制度は公式発表を確認 |
| 合格実績 | 保護者 | 数え方と範囲を明示(後述) |
| 入塾・体験案内、料金 | 保護者 | 総額・条件を明示、特商法 |
合格実績を表示するときのルール
景品表示法:実績の誇大表示は優良誤認になり得る
景品表示法は、品質や内容を実際より著しく優良だと示す表示(優良誤認)を禁止しています。(出典:消費者庁(表示規制))消費者庁の違反事例集には、学習塾・受験対策に関する次の措置命令が載っています。(出典:消費者庁 違反事例集)
| 措置命令日 | 表示(概要) | 実際(概要) |
|---|---|---|
| 平成23年4月26日 | 「2010年度大学合格実績 東京大学43名、京都大学33名」等 | 東京大学15名、京都大学1名など、記載を下回っていた |
| 平成24年5月10日 | 看護医療系の大学・短大・専門学校の「合格率」 | 合格者割合ではなく、高くなるよう任意に設定した架空の数値 |
| 平成26年5月20日 | 「国公立大出身98% 精鋭講師陣が皆さんを指導!」 | 国公立大学・大学院出身の講師は約14パーセント |
いずれも個別の処分です。ここから分かるのは、合格者数・合格率だけでなく、講師の経歴の割合のような「数字つきの強み」も、実際と違えば措置命令の対象になり得ることです。また、効果や実績に関する表示は、裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求められ、示せない場合は不当表示とみなされる仕組み(不実証広告規制)があります。(出典:消費者庁(表示規制))「地域No.1」などの表示も、調査の対象や方法が適切でなければ不当表示になり得ます。(出典:消費者庁 表示Q&A)
業界団体の基準:何を「合格実績」に数えるか
公益社団法人全国学習塾協会は、令和6年7月1日から、合格実績の算出方法を次のように変更しました。受験直前の6か月間のいずれかに「在籍」(契約書面の取り交わしと、有料講座の料金納入が証明できること)があり、かつ、同期間に受講契約に基づく30時間以上の「受講」、または継続して3か月以上の「受講」の実態がある生徒を、数える対象とします。体験授業や模試受験のみの生徒は数えません。(出典:全国学習塾協会 合格実績自主基準)
同じ資料は、表示にあたり、実績が「事業主体の全部」「分教室の一部」「チェーンにおける同名塾の全体または一部」「提携塾の全体または一部」のどれかを明示すること、同一生徒をグループ内で重複して数えないこと、小学校・中学校・高校・大学受験の内訳を示さず合計だけを表示しないことを求めています。これは法律ではなく業界団体の自主基準ですが、保護者への説明の目安として役に立ちます。基準は更新されるため、最新版は協会の公式サイトで確認してください。
講師紹介と保護者の声
講師の経歴は、前述の「国公立大出身98%」の事例のとおり、実際と異なる数字は問題になります。紹介文は、卒業大学・指導年数・担当科目など、事実で裏付けられる内容にします。
合格者や保護者の「声」を載せる場合、消費者庁のQ&Aでは、使用者の体験談を効果の裏付けにするには統計的な客観性が必要で、購入者から送られてくる体験談だけでは客観的な実証とは認められないとされています。(出典:消費者庁 表示Q&A)また、ステルスマーケティング規制のQ&Aでは、アンケートの回答を「お客様の声」として載せるとき、無作為に選んだものは「事業者の表示」にあたらない一方、好意的なものだけを選ぶと「事業者の表示」にあたるとされています。(出典:消費者庁(ステマQ&A))「合格者の声」だけを集めた掲載が、塾の表示として扱われ得ることを意識しましょう。
講師が個人のSNSで塾について発信する場合も、同Q&Aでは、従業員の投稿が直ちに違反とされるわけではないものの、地位や担当業務によっては「事業者の表示」にあたるとされています。(出典:消費者庁(ステマQ&A))講師個人の発信ルールは、運用規程に書いておくと安心です。炎上時の対応はSNS炎上対策マニュアルを参照してください。
生徒の写真・氏名・合格体験談と同意
塾は生徒の氏名・顔写真・成績を扱います。個人情報保護委員会の中小企業向け資料は、氏名や顔写真も個人情報とし、第三者に提供するときはあらかじめ本人の同意を得ることを基本ルールとしています。(出典:個人情報保護委員会 中小企業向け資料)同意の主体が子どもの場合について、同委員会のQ&Aは、年齢は個別の判断としつつ、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもは法定代理人等から同意を得る必要があると考えられる、としています。(出典:個人情報保護委員会 Q&A)全国学習塾協会の合格実績の自己評価シートにも、生徒氏名を公表する場合は個人情報保護法を守り、生徒本人と保護者の同意を得ていること、という項目があります。(出典:全国学習塾協会 合格実績自主基準)
- 合格者の氏名・顔写真・学校名・体験談は、掲載するメディア(チラシ、Webサイト、SNS)を示して保護者と本人の同意を得る(運用上の例)
- 授業風景は、映る生徒の保護者の同意を得た範囲で。同意のない生徒は映さない、または後ろ姿や手元にとどめる
- 成績・順位など他の生徒と比べられる情報は、個人が分かる形で載せない
- 同意の撤回の連絡先と、投稿を削除する手順を決めておく
入塾案内・料金の表示と特定商取引法
学習塾は、特定商取引法の特定継続的役務提供の対象です。消費者庁のガイドでは、学習塾は、学校(幼稚園・小学校を除く)の入学試験に備えるため、または学校教育の補習のための学力の教授で、事業所など事業者が用意する場所で行うものです。期間が2か月を超え、契約金の総額が5万円を超えるものが対象で、小学校・幼稚園の「お受験」対策や、浪人生のみを対象にしたコースは対象になりません。(出典:消費者庁 特商法ガイド)施行令の別表第四も、学習塾の期間を「二月」としています。(出典:特商法施行令)
事業者が用意した場所以外で教える場合は「家庭教師」の扱いで、個別指導塾でも、教室に生徒が通う形なら学習塾にあたります。また、外形上「一か月」の契約でも、契約期間の延長が前提で実質的に要件に該当する場合は、最初の契約時点から対象とされます。(出典:特商法ガイドQ&A)春期講習など短期の講座も、契約の中身や更新の前提によって判断が分かれるため、窓口で確認してください。
対象になる場合は、契約前の概要書面と契約後の契約書面の交付が必要で、法定の書面を受け取った日から8日以内のクーリング・オフもあります。学習塾の中途解約では、事業者が請求できる額に上限があり、役務の提供開始前は1万1000円です。(出典:消費者庁 特商法ガイド、特商法施行令)広告についても、著しく事実に相違する表示などは禁止されています。SNSの料金表示は、入塾金・教材費・模試代などを含む総額と条件を、入塾案内と同じ内容にしましょう。業界団体の自主基準も、契約期間内の経費総額、費目別の経費、クーリング・オフ、中途解約の精算方法などを案内書に表示するよう求めています。(出典:全国学習塾協会 自主基準)
料金の比較表示にも注意が必要です。消費者庁は令和5年3月2日、個別指導を提供する会社に対し、自社サイトの「他の個別指導塾との料金比較表」について、1時間あたりの授業料金が実際は表示と異なり、比較対象の月謝も同等の条件のものではなかったとして、有利誤認で措置命令を行いました。(出典:消費者庁 措置命令(令和5年))
よくある失敗と対処
| 失敗例 | 対処 |
|---|---|
| 合格者数の数え方が決まっていない | 在籍・受講の基準と表示範囲を文書にし、根拠資料を残す |
| 講師紹介の数字を盛る | 卒業大学・指導年数など事実のみ。数字は根拠を残す |
| 生徒の顔や名前を無断で載せる | 入塾時に掲載範囲を示し、保護者の同意を得る |
| 「安い」「得」と比較して書く | 比較対象の条件をそろえ、総額と条件を明示する |
よくある質問(Q&A)
Q. 合格実績は、体験授業だけの生徒も数えてよいですか?
A. 全国学習塾協会の基準では、体験授業や模試受験のみの生徒は数えません。(出典:全国学習塾協会 合格実績自主基準)法律の定めではなく業界団体の基準ですが、保護者への説明の目安になります。
Q. 生徒の合格体験談をSNSに載せるには?
A. 氏名・顔写真・学校名などは個人情報にあたります。掲載するメディアを示し、保護者と本人の同意を得てから載せます。(出典:個人情報保護委員会 中小企業向け資料)
Q. 学習塾のSNSでも特定商取引法を意識する必要がありますか?
A. 学習塾は特定継続的役務提供の対象で、広告表示のルールがあります。期間が2か月を超え総額が5万円を超えるかなどで判断されるため、個別の契約は窓口で確認してください。(出典:消費者庁 特商法ガイド)
まとめ
学習塾のSNSは、保護者の安心につながる情報を、事実の範囲で見せる場です。合格実績は数え方と範囲を決めて根拠を残し、講師の経歴や料金も事実と総額で示します。生徒の顔や名前は同意を得てから。学習塾は特定継続的役務提供の対象となるため、入塾案内とSNSの内容をそろえましょう。
参考情報・出典
- Instagram利用規約(Instagramヘルプ)
- 消費者庁「表示規制の概要」
- 消費者庁「表示に関するQ&A」
- 消費者庁「景品表示法における違反事例集」(平成28年2月)
- 消費者庁「株式会社5コーポレーションに対する措置命令について」(令和5年3月2日)
- 消費者庁「ステルスマーケティングに関するQ&A」
- 公益社団法人全国学習塾協会「合格実績自主基準の変更について」(令和6年7月1日)
- (社)全国学習塾協会「学習塾業界における事業活動の適正化に関する自主基準」(平成23年改正版)
- 消費者庁 特商法ガイド「特定継続的役務提供」
- 消費者庁 特商法ガイド「特定継続的役務提供Q&A」
- e-Gov「特定商取引に関する法律施行令」
- 個人情報保護委員会「はじめての個人情報保護法」
- 個人情報保護委員会 Q&A「同意が必要な子どもの年齢」

